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     書 評 課 題 (第2回)  
  辻大介ゼミ7期    
 

デイヴィド・J・ハーグリーヴス/エイドリアン・C・ノース 編
『人はなぜ音楽を聴くのか〜音楽の社会心理学』
東海大学出版会、2004年

音楽心理学の是正

 「音楽」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。聴くこと、奏でること、売ること、買うこと、さらには癒すことと、その答えは多岐にわたるだろう。このような音楽は、古くは低俗な文化とされ、研究の対象にはなりえなかった。ポピュラー・ミュージックとクラシック・ミュージックの壁は高く、特にポピュラー・ミュージックは軽視されてきた。しかし、テクノロジーやマス・メディアの発達に伴いその価値が認められ、壁はなくなり、近年では音楽心理学への研究が盛んになってきた。
 音楽心理学で扱うべきものは、楽音そのものの物理的特性、ひとりひとりの聞き手が当の楽音を知覚し理解するやり方、音楽としての意味が作られる社会および対人関係の状況の3つであるという。ところが、この3つ目の領域は、今までの研究では扱われてこなかった。したがって、この不均衡を正すために、3つ目の領域、つまり音楽の社会心理学に注目するのが本書である。聴取者、演奏者の両側から、好み、ジェンダー、アイデンティティなどを鑑み、それらの音楽療法や教育への応用までが論じられている。
 中でも興味深いのが、アンソニー・E・ケンプが論じるポピュラー・ミュージックの好みについてである。ローリングズやハンセンらの研究で、精神病的タイプの人であるほど、ハード・ロックに惹かれ、外向的で直情的、大胆であることが認められ、反対に、イージーリスニング用音楽への好みと精神病傾向との関連は否定的であることが確認された。
 他にも、ドルフ・ジルマン、ス=リン・ガンが論じる若者の音楽への短期間の接触効果については、ジョンソンらの研究で、暴力的なラップが若者に暴力を受け入れるようにし、学力向上への努力をしたがらなくすることが述べられている。
これらの結果は、著者も述べているように「予想通り」であるのだが、問題は、研究の具体的な方法と、ジャンル分けの境界が明確に示されていないことである。よって、本書を読む際には参照文献を併読することをお勧めする。
 6部15章からなる本書は、各章の中にも小見出しが付けられており、膨大な情報が整然と、実にコンパクトにまとめられている。多くの章が現在までの研究をまとめ、評価したもので、けっして新たな研究がなされているわけではない。しかし、新たな観点での音楽への眺めは、我々に確実に刺激を与えるだろう。コンパクトにまとまっているだけに、説明不足な感じは否めないが、これからの「音楽心理学」への研究に期待が高まるばかりである。

2007/03/31
[ 評者: 福本 みずほ ]

 
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