山田昌弘 著
『結婚の社会学』丸善ライブラリー、1996年
経済成長の変化と結婚観、恋愛観の変化
「どうしてこの人が独身なのだろう」という素敵な三十代の女性が周囲に増えてきた。一九七〇年以降、結婚難が緩やかに上昇に転じてから二〇代後半から三〇代の未婚の男女が目立ち始めてきた。雑誌やマスメディアがいくら結婚願望をあおっても結婚年齢は上昇を続け、未婚者が増大している傾向に変化はない。著者の山田昌弘は現代の日本の結婚状況を「結婚に関する意識や志向が変わらないゆえに結婚しない人が増え続ける」、「男女交際が盛んになっているからこそ、結婚しない人が増え続ける」と解釈しその原因を戦後日本社会五〇年から見出すことを目的としている。
戦後〜一九六〇年代は男女交際が制限された時代である。戦後新民法の発布により結婚が自由化された。(自由化されたのは結婚であり、男女交際ではない)しかし、恋愛結婚イデオロギー、高度経済成長期によって結婚に結びつかない恋愛行動は制限される。恋愛=結婚の公式が成り立ち、これを破るものなら「不潔」のレッテルを貼られ、男女交際が正当化されない状況であった。また、社会は中流化し男女交際の制限がますます強まっていく。「真面目な子」のイメージ保持、親への依存度の高まり(=経済的自立の遅れ)が原因となり親による青少年の行動管理強化によって身近な異性と知り合う機会がなくっていった。恋愛が結婚を覚悟しなければならないものだったのでこの時期は結婚が早まったのである。
一九七〇年頃から男女交際の活性化が始まる。職場や学校への女性の社会進出、青年の意識変化、経済的余裕によって気軽に付き合える機会が増加していき男女交際の量、質の多様化傾向が進んでいった。そして活性化がもたらすものとして未婚者への「別れの自由」が実現した。恋人の段階ならば、一方的に別れて、また別の人を探せば良い。ただし一度結婚してしまうと法的にも社会的にも離婚することが難しくなる。未婚時代の自由、結婚後への不自由が結婚を遅らせているの要因となっているのである。
さらに男女交際の機会の増加が直接結婚難に与える影響としてもてる人ともてない人との階層分化がある。男女交際により気軽に付き合えることは上記で述べた。それによりもてる人はどうしても一部の人に集中してしまうのである。そしてその対極にあるもてない人=恋愛対象外の人が出現していく。一九七〇年以前ならこのような事態が生じてももてる人はもてる人同士で早々に結婚していたが未婚時代の自由が浸透していく社会ではもてない人へチャンスが減っているのである。
上記から男女交際の活性化を直接の原因とする「恋愛結婚システム」の変化が日本の結婚難を説明できる有力なロジックである。統計資料を論証として用いている構造のため説得力が非常にあり分かりやすい。最後に結婚難への打開策として筆者は「結婚=幸福」の概念を打ち壊すと述べている。これは実証的根拠のない筆者の私見ではあるが非常に関心をもたされた。結婚や恋愛の本質、意味をマニュアル本にはない見方で捉えることができるのではないかと感じ、もう一歩結婚、恋愛について踏み込んでほしいのが個人的な要望である。
2007/03/29
[ 評者: 檜山 壮志 ]
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