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     書 評 課 題 (第2回)  
  辻大介ゼミ7期    
 

山本眞理子・原奈津子 著
『セレクション社会心理学6 他者を知る』サイエンス社、2006年

他者とはいかなる存在か 〜その種類と意味

 私たちは毎日たくさんの人に出会い、その人たちについていろいろな判断を行っている。特定の他者の場合でも、さまざまな思いを巡らせながらその人を観察し、判断している。
 では、「この人とはなんとなく仲良くできそうだ」というような、他者に対する特定の判断は私たちが出会うどんな人についてもいつも起きているのだろうか。答えはそうではない。他者に対するさまざまな判断がいつなされるのかはその人とどのように出会い、その人が自分にとってどんな意味を持つ人なのかによって異なり、また相手とその場でどんな相互作用(相手との何らかのやりとり)をしたいと考えているかに応じて相手に関する情報処理が異なるからだ。
 最初は、その人の存在に気付き、その人に「注意」を向け、その人が何者かという単純な判断をする。そしてその人に目を向ける必要があるのかないのかを瞬時に判断し、「必要がない人だ」となれば、それ以上注意を向けることはない。この判断はほとんど意識することなく起きる。次に、その人に注意を向ける必要があると判断した場合、「速写判断」をする。これはつまり、パッと見の印象、またその人の外見やその時の行動を見てその人がどんなタイプかを判断するのである。そしてたまたまその人に注意が向いたという場合では、その人の外見を中心とした情報のみを判断材料にしている。だから、このような速写判断の対象となりやすい人は「たまたま」私たちの目の前に存在しているだけで、電車の窓の外を流れる景色の一部をなす存在、単なる記憶の一つにしか過ぎない存在である。このような人々は、「人物」として意味づけられている「他者」とは違う判断がなされる。
 そして、相互作用がその時の状況によって限定される一時的な目標である場合には、認知者は相手の印象については目標に関連した側面にしか関心を持たず、目標が達成されればその人物への関心はただちに消え去る。本人の目標を達成できる範囲でしか相手の印象形成に関心を持たない。これは厳密には相互作用を行っているとは言えず、一方的に相手を認知しているだけである。さらに相手に関する何らかの情報処理をする必要がないと判断されるとその人についての情報処理はストップし、それ以上注意を向けなくなる。そして次の付き合いのステップに進みたいという何らかの情報の処理が必要であるとされた(自分が好ましいと思った)人だけに注意が向けられる。
 関心の持てない相手については、簡単な認知的処理だけで済ませ、それ以上の情報処理を停止してしまうと考えられる。そして、停止してしまうだけではなく相互作用の低い人については特定のステレオタイプや決めつけに基づいた情報処理を行う傾向がある。
 現実に、私たちが他者と関わる時、これから付き合いが予想される相手との相互作用の程度が深ければ、その人が自分にとって好ましい人物かどうかいろいろな情報処理を行って判断しようとする。そして、今後一切会う可能性のない人物には何ら関心を持たず、記憶にとどめることすらないのである。

2007/03/31
[ 評者: 西中 智代 ]

 
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