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     書 評 課 題 (第2回)  
  辻大介ゼミ7期    
 

板橋作美 著
『占いの謎 〜いまも流行るそのわけ』文藝春秋社、2004年

占いと世の中の秩序

 合理的、科学的な思惟が支配する時代にも関わらず、テレビや雑誌ではさまざまな占いが取り上げられている。なぜ人間は占わずにはいられないのか。そもそも私たちは、「占い」という行為によって何をしようとしているのか。本書は、その根本的な意味を文化人類学の立場から省察している。
 その問に対する著者の結論はこうである。結局、人間は、世界や人生を無意味ででたらめなものとしては受け入れがたく、それらを秩序あるものとしてとらえたいというのである。また偶然起こる事象についても、それを説明できる規則や原理を見出したいという人間の願望が、占いという営みを生じさせるのだとしている。
 著者はこの結論へと導くため、あらゆる占いを取り上げている。例えば、血液型占いは、自分自身でも明確に説明できない性格や、自分がしたいと思うこと、することなど、行き当たりばったりとしか思えない行動に対して、何々型という形で、自分の性格やら思考様式、好みまで、統一的に説明してくれるというのだ。
 このように世界を秩序あるものとしてとらえようとする目的をもつ占いは、科学と同じだと筆者は考えている。しかし、決定的に違う点は、占いは反証例があっても、否定されないことだという。
 つまり、悪い占いが当たらなかったときは、あなたが頑張ったから変えることができたのだといい、よい占いが当たらなかったときは、よい占いに安心して怠けていたからだ、ということをいう。また、今日のテレビや雑誌では、ラッキーアイテムやラッキーカラーという、その日が悪い日であってもその悪運を変えることができるとされる小物が紹介される。それらによってその日の運を変えることができるのなら、その日が吉凶どちらの日になろうと、当たっていたといえるようになるとしている。
 以上のことから、占いは科学と違い、常に肯定できる要素が含まれている。そこでは当たっているか当たっていないかということは、それほど問題視されないのではないかと考えられる。当たらないことが多くても、多くの人は占いを見るのをやめはしないだろう。むしろ、いかに占いによって過去の行いや現在、そして将来のことなどの漠然とした不安をおさめられるかということの方が重要だと考えられる。本書で述べられている占いの役割によって、若者を中心に必要なものとなり、今日の占わずにはいられないという状況になっていると考えられる。
 本書では、占いは世界や人生を何らかの統一的な秩序あるものにするものと繰り返し述べられてきた。一見、偏った見方にも見えるが、広く深い占いの世界のとらえ方の一つとして非常に興味深いものであった。著者自身もあくまで占いのとらえ方の一つとしていることからも、占いの世界を知る一つのきっかけとして、また新たな視点を見つけるヒントとなる本書をお薦めしたい。

2007/03/30
[ 評者: 永井 啓太 ]

 
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