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     書 評 課 題 (第2回)  
  辻大介ゼミ7期    
 

荻村昭典 著
『服装学への道しるべ 服装社会学入門』
文化出版局、1996年

変化する人と服装の関係

 近年、服装学への関心が高まってきている。それは、これまでの「被服学」の時代は終わり、人と生活の相互関連において服装を捉えようとする「服装学」の時代に入ってきているからである。この新しい「服装学」の体系化には、社会学、社会心理学、文化人類学、心理学、経済学などの活用が必要である。
 本書は、この新しい「服装学」を社会学的観点からアプローチしている。本書を大きく分けると社会生活、文化生活、心理生活と服装との関係から構成されているが、そこから分かってくるのは、今や服装は自然環境から身体を保護するものではなく、自己顕示欲の表現方法として使われていることである。まずは社会生活と服装との関係からみていく。
 筆者は、有史以前から人間は服装をもって自己を他者と区別し、また顕示し、自己を優越させようとしてきたと述べている。この服装による自己顕示の傾向は、文化の進展と社会の分化とともに、強く複雑なものとなっていく。始めは自他の単純な区別でしかなかった自己顕示は、社会の分化・制度化につれて、身分や役割による自己顕示へと複雑化し、服装も地位や身分を象徴するものとして社会制度に密着し、その制約を受けるようになった。
 そして、身分制度が崩れ、階層意識の希薄な大衆社会と呼ばれる現代になると、人々の自己顕示は、個性や存在そのものを強く主張するものへと変わり、服装も身分や地位のシンボルであることをやめて、多様化することになったのである。この自己表現としての服装の多様化傾向はますます強まりつつある。
 次に、文化生活と服装との関係である。筆者によると、人の服装は、道徳や慣習、規範、また、作法、礼儀などによって変化するという。ひとつ例を挙げる。
 サラリーマンは、会社での人とのかかわり、仕事上での他の人との交際を考え、他の人に不快感を与えたり、失礼にならないようなキチンとした服装をする。また、結婚式に出席するときにはそれにふさわしい服装で出かけるだろう。このことから、人間の行動は服装の選択から始まるとも言える。
 また、学生は学生らしい服装をしろとよく言われる。女子学生が飲み屋の女性のような服装をして学校に行けば、学生としてのパーソナリティとは異質な表現として非難される。このように、パーソナリティと服装の関係は密接なもので、服装は、パーソナリティを表現する手段と考えることができる。
 最後に、心理生活と服装の関係である。おそらく誰もが人にこのように思われたい、あの人のようになりたい、このような気持ちから服装を選んだことがあるのではないだろうか。他人の服装を見て、それを模倣したいという心理は誰にもあり、この心理傾向によって流行現象が生まれる。また、服装を身につけることで、心理的に自己に暗示をかけ、また、人の認知を得るために他者へ暗示をかけることができる。このように、人の心理と服装には大きな関係がある。
 本書を読むことで、服装の目的が身体を保護することから自己を表現する手段として使われることに変化したこと、人と服装の間には大きな関係があることが分かった。「服装学への道しるべ」として、具体例を挙げて分かりやすくするなど、「服装学」を学ぶにおいての入門書としては最適な著書ではないだろうか。

2007/04/01
[ 評者: 清水 悠貴 ]

 
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