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     書 評 課 題 (第2回)  
  辻大介ゼミ7期    
 

三浦展 著
『マイホームレス・チャイルド』文春文庫、2006年

豊かさにともなう文化変容

 現代社会は、街中にさまざまな物や空間があふれている。24時間営業のスーパーマーケットや漫画喫茶なども現在ではそれほど珍しくない。若者にとっては格好のたまり場であるといえる。しかし最近では、漫画喫茶に加えてシャワーや個室が併設された、いわゆる複合施設が次々に新店を出している。漫画を読むだけでなく、シャワーを浴びたり個室で好きなことをしたりする癒しの空間としての利用も人気があるようだ。彼らの多くは自分の家、マイホームを持っている。彼らはなぜマイホームで可能な行動を、お金を支払ってでも外に求め、出て行くのだろうか。
 本書は、このようなライフスタイルについて、消費社会という点から分析していく。核家族、高度経済成長期などの社会経済の変化にともなう人々の消費行動の変化、またその消費による生活空間の変化へと展開する。
 戦後、核家族が増加し、その多くが「中流」意識であった。この頃家族の分業化が進み、共同性を失いつつあった。つまり、家族が一緒に働くことはなくなり夫は会社で仕事、妻は育児と家事、子どもは勉強というように、家族それぞれが別のことをするようになった。この家族を結びつけるものが消費であった。テレビや洗濯機、ラジカセなど新しいものを消費することで家族の共同性が生み出されていたのである。1970年代に入り、人々は次第に物に満たされた生活になり、1980年代から消費は家族ではなく個人の時代に入った。テレビはいまや一家に一台でなく複数存在し、電話は家の固定電話では物足りず一人ひとりが携帯電話を所有していることを挙げている。このような消費の個人化は電化製品ばかりでなく飲食物にもあらわれている。例えば、かつてペットボトルは1リットルや1.5リットルしかなかったのが、500ミリリットルが出て主流となっている。家で保存する容器ではなく、街で持ち歩く商品となったのだ。本書では現在のこのようなライフスタイルのことを「保存・蓄積しないライフスタイル」と表現している。
 昔は家にしか存在しなかったものが外に持ち歩けるようになり、「家」という空間へのこだわりがなくなったということではないだろうか。いまや携帯電話があれば、他人とのコミュニケーションはもちろん、自分の好きな音楽を聴くこともできる。つまり、複合施設のように、さまざまな要素があつまった便利で快適な空間に、自分の好きな音楽や食べ物を持ち込むことによって、より自分の過ごしやすい空間に作り上げることができるのだ。
 人々が外に出て行くようになったのは、豊かさゆえのライフスタイル変容の1つといえるだろう。
 このように、本書では現在の若者文化(と思われているもの)を視点にあげ、その社会背景をふまえて分析している。分析は全体的にマーケティングと結び付けて説明される。視点として挙げられている、いわゆる若者文化自体には少し疑問点もあるが、「今どきの若者はこうである」と決めつけてはいないので、その点は評価できるだろう。

2007/03/31
[ 評者: 清水 華子 ]

 
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