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     書 評 課 題 (第2回)  
  辻大介ゼミ7期    
 

若桑みどり 著
『お姫様とジェンダー』筑摩書房、2003年

何がジェンダーを無くならせないのか

 現在、就職活動を行う中で様々な企業の話を聞く機会がある。説明会ではたくさんの女性の姿を見かけるが、依然、女性差別が根強く残っていると感じられる企業は少なくなかった。単純に女性差別はなくなったと言えども、人間の思考の奥で、常識として意識されてしまっているジェンダー問題は存在する。
 本書は、未だ社会に残るジェンダーの問題を筆者の大学の講義で話すレベルにまで落とし、わかりやすくしたものである。ジェンダーの問題によって女性の生き方が変化することが述べられている。
 ジェンダーをどう教えるかということは日本ではまだ始まったばかりだそうだが、それ以前、女性は子どもを産み、育てるのが仕事、「私的領域」に囲い込まれることこそが幸せであり、自分の才能を磨いたり学問に打ち込んだりすることは不必要であり不幸であるとされていた、と筆者は述べる。そのような考えの中で生まれた数々の女らしさの神話。例えばシンデレラ。この物語は女の子は自分で幸福をつかみ取る努力なぞ一切しなくとも、人の言いつけをきいて「すなお」にさえしていれば(そしてキレイでさえいれば)、誰かが、つまりは白馬に乗った王子様が幸せをもたらしてくれる、という物語である。ここに表れる、他者に自分の人生の幸福や方向をゆだねようとする傾向が女性にはありがちだと筆者は述べる。
 そしてこのような物語を昔から読み聞かせられていた私たち女性には、この思想が内面に潜むようになったのだという。
 そこで、若さと美しさだけを価値として教えられた女性達に今教えるべきことは、自分の長い人生のほんとうの使い方を考えてもらうことだと筆者は指摘している。自分の人生をどう生きるべきか、を考えるのは男性だけでなく、女性にももちろん必要なことなのだ。
 本書の中で、女子学生に「白雪姫」のアニメを見せ、意見を述べさせている。3割の生徒が肯定的な意見を述べる一方で、それ以外の生徒は以前に筆者の授業を受けたことがあったのか、否定的な意見を述べていた。その中には「女性差別が色濃く描かれている」「小人は障害者を意味しているのでは」「王子様と結婚するのが女性の幸せと描かれている」という意見があった。本書を読むまでは私も「白雪姫」に対して肯定的な意見しか持つことができなかったように思う。
 筆者はおとぎ話の中には、「型にはまった女性像」「女性を戦わせる」「良い母・悪い母」が描かれていると指摘する。女が女の敵になる、母が娘に嫉妬する、などの現象は男性中心の世界が生み出してしまった「社会化現象」なのだという。
 また、現在世界で認知されているシンデレラ・ストーリーはグリム童話でなく、ディズニーのお話である。このお話はグリム童話を翻訳する際、社会的影響を考えて数回にわたり改善された結果できたものだという。家父長制家族で育ったウォルト・ディズニーはアメリカの秩序を形成するために大幅な改定を行ったそうだ。
 このように私たちはプリンセス・ストーリーに影響されてきた。大学を出、就職をし、結婚し、子どもを産む、という人生設計をもつ人は少なくない。しかしこのような人生設計を持つのは女性だけではない。男性も、いつかは表れる妻と子どもを養うために、必死に就職活動を行っている。この「大衆文化」こそが、きたるべき男女参画社会のいちばんの障害となっているのかもしれないと筆者は述べている。
 このような社会で、男女お互いが満足していれば問題ないが、現代の女性は満足していない。だからこそ、ジェンダー問題を考える必要があるのだと筆者は指摘する。
 本当の幸せとは人から与えられる物ではない、自分でつかむものである。しかし世の中にはまだ、女性の身体や性を商品化し、その人間的な尊厳を破壊する漫画、映画、などのマス・メディアが存在する。これらに対して批判力を持ち、知的に生きることが大切だと筆者に教えられる。これから就職活動を続けるにあたり、女性の働き方、生き方を考え直す良い機会を与えてくれる優れた書であると感じた。

2007/03/30
[ 評者: 小林 加奈 ]

 
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