日本教育協会 編
『「若者の性」白書』小学館、2001年
若者の性意識の現状
本書は、1974年に開始され、6年おきに財団法人日本教育協会によって、日本全国約5500名の青少年を対象に行われた、「青少年の性行動全国調査」の報告書である。
近年、若者の性意識は、めまぐるしい速さで変化している。この調査が行われた一つの契機にも、若者の「性の低年齢化」や「性の乱脈化」が社会問題になったことがあげられている。本書では、そうした性の低年齢化や乱脈化が進行していることが、様々な角度からの調査によって明かされている。
つまり、性に関する経験率や、性に対するイメージの推移にとどまらず、若者の異性関係の変容や、性に関する情報源の推移、日本の性教育の現状から、青少年のセクシャリティの形成に至るまで、その情報量は、すさまじいものである。
そうした、膨大なデータが並べられ、解説が加えられる形で本書は進められているが、あくまで調査報告なので、表面上の進行化は読み取れるものの、その原因というところまで、解説はほとんど及んでいない。そのため、それぞれの章の結びは、今後の性の低年齢化や乱脈化の進行の程度や、そのための対策を示唆するだけにとどまったものが多く、読み手としては、消化不良な気分は拭い去れない。
しかし、そうした消化不良を加味しても、それに勝るデータの数々からは、若者の性意識の現状を十二分に理解することが出来る。また、現状だけでなく、1974年から開始されたこの調査で、1993年に一度沈静したかに思われた、性の低年齢化や乱脈化が、1999年に再び、進行したことなど、30年にわたる若者の性意識の変化が見て取ることが出来る。
そして、注目すべき点は、進行化している状況にあっても、決してそれを若者の反抗ととらずに、はっきりとした第三者視点で解説が述べられていることである。例えば、性行動の経験率の上昇に伴う形で、それに直接かかわるような規範にも変化はみられるものの、本書では、性別役割のような、より間接的にしかかかわらないような規範に対する意識や、性的場面における男女関係は保守的であるとし、あくまで中立な立場をとり、データに基づく解説から、主観的な論調は省かれている。
近年、マスメディアによって、形成されうるステレオタイプは、現代の諸問題において、我々に様々な影響を与えている。何が真実で何が虚偽なのか、一見判断し辛い諸問題の数々においてはこうしたデータベースの有効性は否定できない。そうした点からすると、本書の客観的な視点からの解説は、マスメディアによって形成された、若者の性の現状に対するステレオタイプを見直すには、十分なツールになり得る可能性を秘めていると言えるだろう。
2007/03/31
[ 評者: 楠 仁 ]
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