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     書 評 課 題 (第2回)  
  辻大介ゼミ7期    
 

鹿嶋敬 著
『男と女 変わる力学 ―家庭・企業・社会』岩波書店、2003年

男女共生社会の行方

 新聞記者である著者が、「共働き」「均等法」「価値観の多様化」の3つのキーワードを手がかりに職場や家庭での男女間の「力学」(両者が今どんな状況に置かれているのか、両者の関係はどう変化するのか)を男性側、女性側両方の立場から検証している。ただし、単に男女間の力関係の変化を考察したものではないという点を強調している。
 1〜3章は男性側の目線から書かれている。男女雇用機会均等法により長く放置状態にあった「眠れる資源」に再評価の機運が高まり、女性の総合職が増加することによる女性上司の出現や、妻が外へ出て働くことにより求められる家事の分担への困惑などが挙げられている。今までは「一家の大黒柱」として、会社で働いていればよかったのに、大黒柱の複数化時代になり、妻からは家事の分担を求められ、子どもからの父親への役割期待は急速に縮小し、母親に対するそれと大差なくなったという。しかも、妻が仕事をし、自立できるようになれば、仕事のほか、家庭でも家事一切を背負うという困難な状況に置かれたとき、自らの婚姻に対しても疑問を抱くのだという。夫たちは、夫婦共通の価値観を育てる努力をしない限り、いつ離婚の危機に見舞われ慌てふためかないともかぎらないと著者は述べる。
 4〜6章は女性側の立場から、書かれている。「結婚は女の幸せ」という結婚至上主義が薄れ、「妥協してまで結婚したくない」という意識の高まりがあり、それは結婚後の夫婦の関係にも微妙な影響を及ぼすと考えられており、すでに離婚を恐れない妻の増加という形で現れているという。
 また、仕事をするにあたり日本の女性は家事と仕事の「バランス」をとても気にするという。仕事を持っているからといって家事・育児がおろそかになっては大変だと奮戦する姿は男性とは対照的である。
(1)再就職するに当たり、夫の了解を得ることが条件になる。
(2)夫は妻が再就職する際、ほとんどといっていいくらい「家庭のことがおろそかにならなければ」という条件つきで許可する。
(3)働き出した妻は、家事・育児を専業主婦並みにこなそうとする。
など、日本型「職」生活においては、家庭責任は夫と妻が対等に負担するものだという認識が希薄であると著者は述べている。
 その上均等法施行後は、残業も男性並みになり、主婦の働きやすい環境というのはまだまだできていないといえる。女性たちの不満の矛先は、家事を手伝わない夫たちや男性中心の職場環境、保育制度、また男女平等の理念だけが先行した均等法へと向けられるのだという。
 最後の7章は男女共生時代に向けてというテーマでまとめている。男女共生社会の実現は容易ならざる課題であり、「男が変わればいい」というのが正論だが、現実にはなかなか変わりそうにないのが現状だという。男性が家庭参加しやすいように、現在の労働形態を見直すべきだと言う一方で、しかし実際家庭での「共生」関係が実現するか否かは夫たちの価値観がどう変わるかにかかっていて、やはりそうなると男女共生社会の最後の決め手は男女平等教育の徹底しかないのだと著者は述べている。
 本書は、男性側にも女性側にも偏らずに両方の立場から公平に書かれているところがいいと思った。しかし著者は、全体を通して「結局男女平等という問題は、突き詰めれば男性がどう変わるかに尽きるのではないか」と述べているが、はたしてそうだろうか。女性にも変わらなければならない部分はあると思う。男性と同じように働くことや家事の分担を求める女性がいる一方で、現在でも「最終的には男性が養ってくれる」と考えている女性も多くいる。そんな女性を見た男性が「だから女性は」と思ってしまうのも仕方がない気がする。女性も男性も、異性と対等な扱いを求めるなら、それなりに自分も考えを変えなければならない。変わらなければならないのは、男性も女性も、どちらもだと思う。

2007/03/31
[ 評者: 尾崎 友紀 ]

 
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