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     書 評 課 題 (第2回)  
  辻大介ゼミ7期    
 

三宅和子 著
「携帯メールの話しことばと書きことば」
三宅和子ほか編『メディアとことば2』ひつじ書房、2005年

携帯メールのコミュニケーションは視覚コミュニケーション

 本論文は、若者が携帯電話の主に使う機能としてのメールが、本来なら「書きことば」であるはずだが「話しことば」に限りなく近いということを述べ、携帯電話のメールがどのように「書きことば」を「話しことば」に展開していっているかを、実際にやりとりされた携帯メールの内容を使って分析している。
 携帯メールは最初から文字による伝達を意図した発話なので「書きことば」ではあるが、メールの送り手と受け手が完結しない発話をやりとりしているため、「おしゃべり」の要素をもつ「話しことば」であると筆者は述べている。また、携帯メールが「対面でのおしゃべり」と異なるところは、「空間を共有しない」「文字言語」という点だけであり「くだけた場面での、特定の相手と個人の間で送受信される、空間を共有しない文字言語のコミュニケーション」と筆者は捉えている。
 携帯メールの「話しことば」らしい特徴として、筆者は日常の報告やおしゃべりを展開していることが多いことをあげている。さらに携帯メールの「話しことば」らしい談話構成として、返信の速さとテンポ、語りかけと応答、絵文字記号類でポーズやあいづち、トピック転換、があることやあいさつ少ないことをあげている。
 筆者は、携帯メールの言語的特長として最も注目しているのは絵文字記号類であり、それは視覚に訴える表記で対面会話では実現しにくいコミュニケーションを可能にしているのではないか、と問題提起している。日本語には、ローマ字や漢字、カタカナ、ひらがなの4種類の表記があり、その視覚表現の多様性を利用して携帯メールでは視覚に訴えるヴィジュアル・コミュニケーションがやりとりされているという。文字の視覚的イメージを駆使した若者の「ことば遊び」は、日本語話者のヴィジュアル・コミュニケーションへの志向性を強く反映したものであることを筆者は最後に説いている。
 本論文では、携帯メールについての「書きことば」がどのように「話しことば」に展開されているのかを、実際にやりとりされた携帯メールの具体的例を取り上げて分析しており理解しやすい。しかしより興味深く研究するなら、収集したメール全体を統計的に分析すると携帯メールの特徴がよりあらわになるのではないかと思われる。さらに、ヴィジュアル・コミュニケーションについて、どの種類の表記がどのように人に感じとられるかを調べると、若者の携帯メールの表記の使い分けがわかるだろう。

2007/03/31
[ 評者: 伊藤 好美 ]

 
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