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     書 評 課 題 (第1回)  
  辻大介ゼミ7期    
 

種田博之 著
「占いの宗教への変容」
『関西学院大学紀要』第84号、2000年

現代の占い事情

 現代、占い産業は1兆円規模に達すると言われ、新聞・雑誌・情報系のテレビ、そして占い本など日常生活の様々な場面に見ることができる。占いを信じる、信じないに関わらず、その結果によって、気持ちが左右された経験をしたことがある人も多いだろう。
 本書では、「必ずしも信じられてはいない」占いを、読者に拒絶されないように、占い師が、読者(特に若者)のニーズに応え、その正当性の信仰を促すためのさまざまな手段を用いていることを描きだしている。この点に占いの今日的な特性をみることができるだろう。
 少し古いデータではあるが、1988年の世論調査の占いに対する意識調査では、占いが「盛んになる」・「現状のまま」という回答が約8割を占めた。しかし、1991年の世論調査では、「信じていない」という回答が約7割を占めた。つまり占いは、信じられていないかもしれないが、人々に受容はされているというのが実情のようだ。
 必ずしも信じられてはおらず、いつ人々に拒絶されるかもしれない占い師は、社会に適応し、ニーズに応え、その正当性の信仰を喚起するような占いをする必要が生じてきた。そこで占い師は、この2つを示すために「占い本」を活用しているという。本書では、その「占い本」の言説とその変容を見ることによって、それをどのようにして得ようとしているかを捉えようとする。
 その顕著な例として、細木数子の占いが例に挙げられている。彼女の六星占術は神、先祖といった宗教的なものとの関係が基軸となり、運命を説明し始め、1985年以降に注目を集めたといわれる。
 なぜ宗教的なものを取り入れたか。それは、宗教が一方的に自己の知識を提示しているのではなく、人々(社会)のそれらを踏まえて、教義を体系化しているからだという。また占い師(服従者)―読者(被服従者)の関係は「服従意欲」があって成立する。そのためには、正当性の信仰とその喚起も重要になるという。
 この現代の占いに必要とされる2つの要素を組み込んだ六星占術は人々を説得するための正当性を付与している。また彼女の占いは科学、過去の事例などの要素も組み入れて、当該言説の正当性を喚起しようとしているというのである。
 いつでも簡単に自分を占える現代では、占いがちょっとした若者の会話のきっかけになったりもする。その占い内容が時代のニーズに応えなければならない占い師によって、若者向けの内容に変容しているとすれば、現代の若者の関心ごとや悩み事などを知ることができるものでもあると考えられる。またニーズに応えるようになったのは、「必ずしも信じれないものであるから」という理由以外に、若い女性を中心に、人々が占いを欲する時代背景があるとも考えられる。その占い需要の拡大についてもこれから見ていくことができるだろう。
 しかし正当性の信仰とその喚起については疑問符がつく。細木数子や他の有名占い師の占い以外にもさまざまな占いがある。情報番組、雑誌などの占いは、誰が占ったかわからないが、気持ちを左右されることはしばしばあるだろう。時代のニーズに占いが対応しているからこそ、占いを信じることが可能になっているのではないだろうか。
 このような疑問は残るものの、占いに関する研究はあまりなされていないというのが現状だ。その中で、占い師と需要者の関係から占いについて論じている本書は貴重なものといってよいだろう。

2006/10/26
[ 評者: 永井 啓太 ]

 
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