岩田考ほか 編著
『若者たちのコミュニケーション・サバイバル:親密さのゆくえ』
恒星社厚生閣、2006年
若者文化と社会学
この本は、9人の執筆者が友人関係・恋愛関係・家族関係それぞれの観点から、若者のコミュニケーションや親密性について考察し、各自の議論を展開しているものである。第1部は若者たちの現在、第2部は若者たちの生き残り戦略、第3部は親密な他者としての恋人・家族、第4部はメディアと親密性の変容というテーマで構成されている。各部には複数の章とコラムがあり、様々な話題が提供されている。さらに、2006年に出版されたものであるため、各章の冒頭に「世界の中心で愛を叫ぶ」(セカチュー)や「電車男」という比較的新しく、話題になった小説を取り上げたり、実際のインタビューから本題に入ったりしており、非常に読みやすい構成になっている。
第1章では若者の友人関係について論じられている。若者は状況に応じて友人を使い分けていて、友人関係が希薄化しているという一般論に対して、筆者は部分的にはむしろ関係が深まっていると考えている。興味深いのは、友人関係を調査する際に「私」という点からアプローチしていることである。「自分らしさ」や「自分を好きか」という調査項目の過去との比較から、部分的な付き合いをすることで様々な自分を使い分け「自分らしい」と感じる人が減少し、使い分けによって嫌な気持ちになることが減るために「自分を好き」という回答が増加したのではないかとされる。多くの選択肢が存在する時代だからこそ、状況ごとに人間関係を柔軟に駆使し生きる。そうした若者の姿を筆者はコミュニケーション・サバイバーと名付け、これが本の題名にもなっている。
選択肢が多く存在するという状況は、友人関係だけではなく、第5章では恋愛関係、第6章では親子関係についても論じられている。恋愛関係において「現在付き合っている相手と結婚するつもりはない」と回答した割合が増加しているのは、昔よりも「付き合う」ことと「結婚する」ことは別だという意識がはっきりしていることを示している。また、交際の段階でいわゆる「ふたまた」のような複数恋愛をした経験も増加傾向にある。
第7章・8章ではインターネットによるコミュニケーションについて論じられている。インターネット上のサイトや掲示板、チャットなどでのコミュニケーションの特徴は、第1に対面的なコミュニケーションと比べてやりとりされる情報量が少なく、第2に自分の都合に合わせてメッセージを送受信できること、第3にその結果、匿名性が相対的に高く保たれ、ゆえにあまり親しくない者同士でもコミュニケーションがとりやすいことである。インターネットとケータイは同じように語られることもあるが、この本ではそうではない。ケータイは端末を常に携行するので、メッセージの送受信がいつでも可能であり、たとえメールであっても即時的に応答することが求められるため、第2の点において相違が生じている。
以上のように、若者のコミュニケーションに関して様々な点から論じられているが、多くの問題はすでに100年も前から指摘されていることなのである。例えば第1章における、他者との関係性の変化に伴う自己の変容に関しての指摘、つまり状況に合わせて自分を変えるということに関する指摘は、社会学の基礎を築いたジンメルにまで遡ることができる。現在特有の問題、新しい問題だと思っていたことでも実はすでに、何年も前から社会学者によって語られていることが多いのだ。問題の入り口は、もちろん時代によって違いがあるが、大元をたどれば昔の社会学者による指摘にたどりつくことができることが多い。そうした社会学のおもしろさを知ることのできる一冊といえるだろう。
2006/10/19
[ 評者: 清水 華子 ]
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