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     書 評 課 題 (第1回)  
  辻大介ゼミ7期    
 

石本雄真 著
「大学生のボランティア活動の動機」
『日本心理学会論文集(12)』、2004年

若者のボランティアに対する意識

 1995年1月17日に起きた阪神・淡路大震災のボランティア活動によって、人々のボランティアに対する関心は高まることとなった。関心の高まりに伴い、ボランティア活動する若者が大幅に増えている。どうして若者はボランティア活動をするのか。この論文では、若者世代に急速に広がっている、ボランティア活動の動機について、特に社会人との比較を通じて明らかにしようとしている。
 これまでの研究において、最近のボランティアは、正義感と使命感に支えられた「真面目」なものというより、仲間づくりやイベントを重視した「楽しい」ものに重点を置くようになったことが明らかにされている。この論文の調査でも、大学生は、他者志向型な動機でボランティア活動しているのではなく、自己志向的な動機でボランティア活動しているという結果が導かれている。
 この調査データをもとに、石本は、重要なボランティア活動動機の因子として、「社会貢献」「自己啓発」「将来的利益」「友人同調」「社会的責任」「充実願望」「自己防衛」の七つを抽出している。次にボランティアの活動開始時と、活動継続時の動機7因子を、大学生と社会人の間で比較し、t検定が行われた。回答数としては、開始時動機・継続時動機ともに社会貢献や自己啓発が多かったが、大学生と社会人に差がなかった為、両者の相違は最も強い動機以外の部分に存在するという。
 活動開始時においては、将来的利益、友人同調、社会的責任、充実願望に有意な差が見られ、活動継続時においては、自己啓発、将来的利益、友人同調、社会的責任、自己防衛にそれぞれ有意な差が見られた。このうち両方とも、社会的責任のみ社会人の方が有意に高く、大学生が社会人より高いものはすべて自己志向的な動機であった。
 動機の変化と比較すると、大学生では、社会的責任が開始時より継続時のほうが有意に高く、充実願望は継続時より開始時のほうが高かった。社会人においては、自己啓発、友人同調、充実願望、自己防衛が継続時より、開始時のほうが有意に高かった。
 大学生・社会人ともに充実願望は継続時のほうが低くなっており、充実を求める動機は活動し、充実感を得ていくに従い低下していく。また、大学生において活動を行っていくうちに、様々な現実を目の当たりにし、ボランティア活動の必要性を実感していくという点で社会的責任の上昇が見られると解釈されている。
 このように大学生は主に、自己志向的な動機でボランティア活動をしており、自己志向的な動機で活動を始める者が増えることは、ボランティアにとって明るい兆しである、としている。
 この調査では、動機の重要な因子7つの他にも、多くの項目を検討している。そのうえで7因子に基づく分析がなされているため、これまで構成されてきた尺度に対し、より包括的な動機の構造が捉えやすくなった。また、開始時と継続時の動機の変化において、充実願望が継続していくにしたがって低下していくことは、一般的な見方からすれば、意外な結果と言えるだろう。
 以上の点は十分に評価できると考えられる。しかし私が気になった点は、この調査はボランティア経験者のみに行われた調査であることだ。ボランティアする者は急速に増えているが、同様にボランティアをしたい、と考えている人も増えているはずである。ボランティア未経験者の調査も必要ではないだろうか。

2006/11/14
[ 評者: 岩脇 絵里 ]

 
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