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     書 評 課 題 (第1回)  
  辻大介ゼミ6期    
 

山田博 監修
『若者たちの社会的ひきこもり』
日本加除出版、2001年

 本書は、精神科医や家庭裁判所調査官などの専門家*1 が書いており、家庭問題情報センターの理事長が監修している。彼らの視点から、若者たちの社会的ひきこもりについて述べた 論じた*2 ものである。

 第一章では、まず、「社会的ひきこもり」と社会的背景・原因・症状について説明している。今日、「ひきこもり」の確立した定義はないのだが、著者は、「子どもから大人に移行する時期の心理的危機に、ひきこもりと名づけられるような反応を示している状態」と定義している[←*3。社会的ひきこもりがふえている時代的・社会的要因としては、四点あげている。一つ目は、モラトリアムの延長である。公的教育期間の長期化により、以前と異なり、高等教育を受けることが一種の若者の権利のようなものになってしまい、 っている。そして、*4 モラトリアムを提供する人とされる人との間の社会的格差が失われた結果、モラトリアムが何時まででも継続しかねなくなり、ひきこもり状態が持続するのだという。二つ目は、父親の不在と母子の密着である。父親の姿が家庭から消え母子関係が密接になることで友達のような親子になり、大人への尊敬を失いいつまでも母親に甘えていたいと思うようになると説明している。三つ目に、幼児期から体験する競争社会だ。思春期になって自己を確立しようという時、確立すべき自分がないと感じてしまうのだという[???*5。四つ目に、世襲と生殖の機能をあげている。親が、自分のなしえなかったことや階層的な地位の向上を子どもに期待してしまい、子どもは思春期危機につまずいてしまうという。

 次に、親としてどう対応していくかについて述べて 提言している。現在確立した治療法は存在しないので、親が専門家の援助を得て、自ら子どもの成長過程に何らかの形で関わり直すことが重要であり、子どもの心の中に介入しすぎないで ずに、どのようにたすけられるかが問題を解決する鍵であるとまとめている。

 第二章では、カウンセラーや大学教員などの専門家が、様々なひきこもりの相談にQ&A形式で答えている。ひきこもりの若者たちが社会復帰にむかえるよう、親や学校がどう対応するべきかなど述べられている。

 第三章では、ひきこもりの相談や援助について、今どんな状況にあるのか、家族で構成されているある自助グループと、それと提携する個別相談・援助の内容について紹介している。まず、本人のために良い環境を設定できるよう環境調整を行う。相談の目的は、本人と家族との相互的コミュニケーションの回復だという。

 第四章では、第三章で述べたところを、二つの事例に即して具体的に紹介している。来談までの経緯、来談後の経緯、援助の展開、援助の仕上げを本人の母親が語るという形で紹介しており、回復は医師やカウンセラーだけでなく、家族や友人など多くの人々の助けを得て成し遂げられるものだと強調している。

 本の最後に、公的相談機関一覧が載っており全国の機関の住所と電話番号 とともに記載されている。

 この本は、ひきこもりに悩む家族や周りの人、また自分がなぜひきこもりの状態なのか知りたい本人にとって、ひきこもりについて正しく理解し、どのように対応すればよいかを知ることのできる一冊だ。

 「ひきこもり」という言葉は、20世紀の終わり頃から出始めた に現れたのだが、若者のひきこもりは単なる個人の問題ではなく、今の社会、そしてこれからの社会において無視できない大きな問題である。自分には関係ないと思っている人にもこの本を読むこと 一読をお勧めする したい

 ただ、ひきこもりの社会的要因については、事例はあげられているもののはっきりとした科学的データが示されておらず、論拠が明確ではない。例えば、若者は携帯による広く浅い交際を好む傾向が一般化しているという叙述があるが、その論拠がないので、素直にそうだと聞き入れることができない 挙げられていないため、やや説得力を欠く

 とはいえ、ひきこもりに関心がある人もない人も、是非読むことを薦めたい一冊である。

2005/05/22
[ 評者: O.A. ]

*1:何の専門家?ひきこもり問題に関する専門家ですか?この点をきちんと書く。
*2:「述べた」「言った」「書いた」というのは割とあいまいな表現です。あまり使わないようにしたほうが引き締まった文章になる。
*3:「ひきこもり」を定義する文のなかに「ひきこもり」が用いられているので、これは定義になっていませんよね。ツッコミどころ。
*4:一文が長いので、二つに切る。
*5:そう感じてしまうことに、競争社会であることはどう関係しているのでしょうか?その点をきちんと書かないとわからない。

[ comment ]
割とまとまっているとは思いますが、最後のオススメ文句が、批判点のあとに唐突に付け加えられています。これでは説得力がない。これこれの批判点・問題点はあるものの、なぜオススメに値するのかをせめて簡単にでも説明しておかないと。』
この本の場合、ひきこもりは心理学的・精神保健学的「治療」の対象であるという前提で書かれているように思います(この書評を読む限りでは)。
しかし、ひきこもりとは単なる「心」の問題(病い)なんでしょうか。その点が私には少し疑問です。ツッコミどころかも。

 
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