[ home ] [ back ]
 
     書 評 課 題 (第1回)  
  辻大介ゼミ6期    
 

香山リカ 著
『若者の法則』
岩波新書、2002年

「若者の法則」を読んだ若者の書評

 「元若者」である著者は、「いまどきの若者について考えることは、だれにとっても自分についてもう一度考えなおすことにもなるはず」と述べている。

 本書は、一見理解不能とも思える若者の言動を分析し、「若者の法則」としてまとめたものである。  著者は「若者の法則」を大きく6つに分類し、話を展開している。その6つとは、
 1「確かな自分をつかみたい」の法則
 2「どこかでだれかとつながりたい」の法則
 3「まず見かけや形で示してほしい」の法則
 4「関係ないことまでかまっちゃいられない」の法則
 5「似たものどうしでなごみたい」の法則
 6「いつかはリスペクトしたい、されたい」の法則
である。

 著者の言う「若者」というのは、以下のような人たちのことである。(気になったところ[←*1を抜粋)

 自分の性格を変えたくて、泣かなければ自分が何者かわからなくなってしまうが、
 笑うという行為で懸命に「自分もこの場にかかわっているのだ」ということをアピールし、
 はっきりしたメッセージのない贈り物をし、
 自分の容姿をできるだけ磨いてチャンスをつかもうとし、
 仲間以外はみな風景で、ちゃんとあいさつもできず、
 今あるものを手放すことには恐怖を感じるが、
 一度失われてしまったものに対しては意外なほどクールで、
 先輩や上司という肩書きには興味がない。

 本書の評価できる点は、精神科医、大学助教授といった著者の職業柄、若者とふれあう機会が多いため、内容にリアリティがあることだ。そして様々なカテゴリーから[?*2、読者に持論をわかりやすく説明している。

 しかし、本書は論理的というよりも、かなり主観や印象の意味合いが強く によるところが大きく、「若者論」というよりもエッセイという方が正解であろう ふさわしいだろう

 今まで若者論に関する書籍を少しばかり読んできたが、この本にはあまり感銘を受けなかったというのがホンネだ。なぜなら、確固たるデータが全くといっていいほど無いからである。本書中に出てくるデータらしきものといえば、
 「……が調査結果を見せてくれた」
 「……が急激に増えているという」
 このような具合だ。

 数多くの視点から若者を捉えているにも関わらず、その若者の対象が著者の周りの人物に限られすぎているため、世界が狭い。そのような点もあり、納得しきれない。

 本書は、「既存の若者論」を壊そうと努力しているように見受けられる。それと同時に、持論で若者を型にはめようとしているようにも見受けられる。しかしインパクトは薄い。持論展開後の語尾に力がないからである。
 「……かもしれない」
 「……気がする」
 このような語尾では、説得力に欠ける。

 そして、目次で疑問に思った点がある。
 2「どこかでだれかとつながりたい」の法則と、
 4「関係ないことまでかまっちゃいられない」の法則である。

 矛盾してはいないだろうか?

 2章の「食事」でランチメイト症候群を例に出し、「若者はだれかとつながっていたい」としながら、4章の「飲み会」では、「ルールは他人に干渉しないことである」としている。

 矛盾しているところも「若者らしさ」なのだろうか?

 若者の私にもよくわからない。

 本書を読む大人に対して一言。ここに出てくる若者像が、若者の全てと思わないでほしい。「こういう若者もいる」といったような、軽い感じで読んでみてはいかがだろうか。

2005/05/20
[ 評者: O.K. ]

*1:この1文は長すぎ。適当なところで2〜3文に区切る。
*2:この1文は、ほとんどすでに述べたことの繰り返しなので不要。

[ comment ]
ちょいと短いのが気になりますが、この本の要約ならこれくらいが適当かもしれません。すっきりまとまっていますし、文章に流れもある。
ただ、「語尾に力がない」から「説得力に欠ける」というのは、ちょっと難癖めいている。文体の批判は、内容への批判につながっていかないと、それこそ説 得力に欠けてしまう。「かもしれない」「気がする」という語尾になってしまうのは、やはり内容そのものが印象論の域を超えることができないからではないで しょうか。
それから、これは書評そのものの評価に直接かかわることではないですけれども、「だれかとつながっていたい」ことと「他人に干渉しない」ことは、やはり 矛盾するんですかね?「互いに干渉しすぎない限りにおいて、つながっていたい」ということもありえるように思うのです。どうなんでしょ、若者のみなさん?

 
02 < index > 04